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1. EC化率とは?
EC化率とは、「商取引全体のうち、EC(電子商取引)が占める割合」を指します。
基本的な計算式は以下のとおりです。
EC化率 = ECの売上 ÷ 全商取引の売上
EC化率を確認すれば、今ECが伸びている市場はどこかを把握できます。EC事業の戦略作りを行う際は、参入する市場のEC化率を確認すると良いでしょう。経済産業省の資料では、業界ごとにEC化率の推移についても予想されているため、長期的な戦略を立てるときにも役立つはずです。
2. BtoC市場のEC化率・市場規模|9.13%・約22.7兆円
2020年のBtoC(企業から消費者への取引)市場のEC化率は9.13%です。前年比で1.9ポイント増えており、増加傾向にあるといえます。
BtoC-ECの市場規模全体は約22.7兆円であり、前年比で9.91%拡大しました。
出典:電子商取引に関する市場調査の結果を取りまとめました|経済産業省
近年のBtoCのEC市場の重要なトピックは6つあります。
【BtoC-EC市場の重要トピック】
①実店舗/ECの位置づけの変化 |
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②サブスクリプションサービスの普及 |
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③物流の課題の深刻化と改善 |
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④インターネットの情報セキュリティに対する不安が根強い |
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⑤スマートフォンの普及 |
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⑥SNSの広がり |
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3.分野別・BtoC-EC市場のEC化率
BtoC-EC市場は、分野によって状況が異なります。
そこで、以下では「物販系分野」「サービス分野」「デジタル分野」という3つの主要分野について解説します。
3-1. 物販系分野のEC化率・市場規模|9.13%・約14.0兆円
出典:令和4年度 電子商取引に関する市場調査報告書 p.5|経済産業省
2022年の物販系分野におけるEC化率は9.13%です。その市場規模は、13兆9.997億円となっています。
出典:令和4年度 電子商取引に関する市場調査報告書 p.5|経済産業省
この通り、物販系分野のEC化率・市場規模は成長傾向にあります。ただ、2020~2021年の成長率と比較すると伸び方は鈍化しています。
2021年ごろまでは、新型コロナウイルスの影響により、外出を控えた形で消費を行う「巣ごもり需要」が盛り上がりをみせ、ECのニーズも高まりました。その結果、物販系分野のEC化率なども上昇傾向にあったと考えられます。
しかし徐々に新型コロナウイルスの影響が収まると、ECのニーズも落ち着き、物販系分野のEC化率などの成長率も鈍化したと思われます。最新のデータはまだ発表されていませんが、「巣ごもり需要」の影響が非常に少なくなってきた、という現場の声も上がっています。そのため、2023年のEC市場規模の成長傾向はさらに鈍化すると予想されます。
その具体的な内訳の数値としては、下記のとおりです。
出典:電子商取引に関する市場調査の結果を取りまとめました|経済産業省
物販分野において市場規模が特に成長した分野は以下のとおりです。
- 「食品、飲料、酒類」:前年比9.15%増
- 「化粧品、医薬品」:前年比7.48%増
- 「自動車、自動二輪車、パーツ等」:前年比5.55%増
また、EC化率が特に成長したのは、以下の分野となります。
- 「書籍、映像・音楽ソフト」:前年比12.90%増
- 「食品、飲料、酒類」:前年比10.34%増
- 「生活家電、AV機器、PC・周辺機器等」:前年比10.18%増
物販系分野の商品は、型番や製品名などで直接検索を行って取り引きされるケースが多いといわれています。そのため「書籍、映像・音楽ソフト」や「生活家電、AV機器、PC・周辺機器等」などの分野はEC化と相性が良く、まだまだ成長が続く見込みです。
3-2. サービス系・デジタル系分野のEC市場規模|約6.1兆円・約2.6兆円
出典:令和4年度 電子商取引に関する市場調査報告書 p.6|経済産業省
2022年のサービス系分野の市場規模は6兆1.477億円、デジタル系分野の市場規模は2兆5,974億円となっています。
それぞれの分野の前年比の増減率は以下のとおりです。
出典:令和4年度 電子商取引に関する市場調査報告書 p.6|経済産業省
この表からもわかるとおり、サービス系分野のEC市場規模は32.43%上昇しているのに対し、デジタル系分野のEC市場規模は6.10%下落しました。
それぞれの分野の市場規模の変動の内訳などについては、以下で詳しく解説します。
3-2-1.サービス系分野の市場規模内訳
さきほどの表のとおり、サービス系分野の市場規模は全体として32.43%増加と、大幅に拡大しました。
特に、旅行サービスや飲食サービス、チケット販売など外出を必要とするサービスが拡大しました。これらサービスの需要が拡大した主な背景としては、新型コロナウイルスの影響が弱まり、人々の外出が増加したことが挙げられます。
ただ、2022年の市場規模が6兆1,477億円であるのに対し、コロナ禍以前の2019年におけるサービス系分野の市場規模は7兆1,672億円。まだ以前の水準にまで回復しきれていないのが現状です。
出典:電子商取引に関する市場調査の結果を取りまとめました|経済産業省
3-2-2. デジタル系分野の市場規模内訳
前述のとおり、デジタル系分野のEC市場規模は、前年比で6.10%下落しています。
デジタル系分野の中には、電子出版(電子書籍・電子雑誌)や有料音楽配信・有料動画配信、オンラインゲームの市場が含まれます。
特に注目すべきはオンラインゲームの市場です。近年、オンラインゲーム市場は、新型コロナウイルス感染拡大に伴う外出の自粛などの影響もあり、課金制のゲーム(「ガチャ」方式のゲームなど)を中心に市場を拡大していました。
しかし2022年、オンラインゲーム市場は、前年比で18.79%、市場規模が縮小しています。この背景としては、まず新型コロナウイルスの影響が弱まり、消費者の外出機会が増えたことなどが挙げられます。
出典:電子商取引に関する市場調査の結果を取りまとめました|経済産業省
ただ、オンラインゲーム市場は今後も拡大していく市場だといわれています。特に「eスポーツ」と呼ばれるゲームの対戦競技の市場が拡大する見込みです。一般社団法人「日本eスポーツ連合」の分析では、2022年以降、年平均20%を超える成長率で市場が拡大する予想がされています。
出典:「日本eスポーツ白書2022」販売開始のお知らせ|日本eスポーツ連合
一方で、ゲーム市場は、有料動画配信市場など、他のコンテンツの影響により、今後成長が鈍化する可能性もあります。2021年にはAbemaTVがワールドカップ中継を無料で提供するなど、動画配信市場では新規顧客の取り込みを積極的に行っています。これにより、消費者がお金・時間を使う優先順位が変わり、ゲームより動画の市場が伸びることも考えられるわけです。
4. CtoC-EC市場規模|約2.36兆円
フリマアプリやネットオークションが代表例とされるCtoC-EC市場は、2021年から2022年にかけて6.8%増加しました。
出典:令和4年度 電子商取引に関する市場調査報告書 p.8|経済産業省
ただ、2020年は12.5%、2021年は12.9%と市場が拡大していたため、2022年の伸び率は比較的鈍かったといえます。この背景にもまた、新型コロナウイルスの影響力の低下と外出需要の増加があると考えられます。
CtoC-EC市場の主な特徴・傾向としては、以下の5点が挙げられます。
①リユース利用人口の拡大 |
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②BtoC市場と共存する見通し |
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③一次流通事業者と連携する可能性 |
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④不正取引を防止する仕組み作り |
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5. BtoBのEC化率・市場規模|37.5%・420.24兆円
2022年のBtoB市場におけるEC化率は37.5%、その市場規模は420兆2.354億円でした。
前年比でいうと、EC化率は1.9ポイント増、市場規模は12.8%増となっています。
出典:令和4年度 電子商取引に関する市場調査報告書 p.91|経済産業省
2020~2022年の間のBtoB-EC市場の業種別内訳は、以下のとおりです。多くの業種においてEC化率・EC市場規模ともに増加傾向にあります。
出典:令和4年度 電子商取引に関する市場調査報告書 p.92|経済産業省
国内のBtoB-EC市場における重要なトピックとしては、以下の2点が挙げられます。
①INSネットの廃止 |
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②インボイス制度への対応 |
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6. 世界のBtoC-EC化率・市場規模|19.3%・5.44兆ドル
2022年の世界のBtoC-EC市場におけるEC化率は19.3%、その市場規模は5.44兆ドル(US)です。
新型コロナウイルスの影響により、世界中でECの需要が増加傾向にあります。
経産省の「電子商取引に関する市場調査報告書」のデータによると、2026年にはEC化率23.3%、市場規模7.62兆ドルにまで拡大すると予想されています。
出典:令和4年度 電子商取引に関する市場調査報告書 p.102|経済産業省
出典:令和4年度 電子商取引に関する市場調査報告書 p.103|経済産業省
6-1. 各国のEC市場と越境ECの重要性
こうした世界各国のEC市場に関する情報は、今後さらに重要になるでしょう。
国外に向けて商品を販売する「越境EC」もまた、これから拡大していく見込みです。経産省の同報告によると、2021年時点で、世界全体の越境EC市場規模は7,850億ドルですが、2030年までには7兆9,380億ドルにまで大幅に拡大すると予想されています。
現在、日本の越境EC市場規模(BtoCのみ)は3,954億円であり、そのうちアメリカ経由の市場規模は3,561億円、中国経由の市場規模は392億円となっています。これらの市場もまた、今後さらに拡大すると思われるため、日本以外の国のEC市場のデータの重要度はますます上がっていくでしょう。
出典:令和4年度 電子商取引に関する市場調査報告書 p.105|経済産業省
7. 今後のEC化率の市場予測
今後、国内のEC化率は次第に高まると予想されています。
ニッセイ基礎研究所のレポートでは、新型コロナウイルス感染拡大前の状態に戻る「コロナ前回帰シナリオ」と、コロナウイルスの影響が残り続ける「ニューノーマルシナリオ」の2つに分けて、今後の国内のEC化率を予測しています。
「コロナ前回帰シナリオ」の場合は2040年までに17.6%になり、「ニューノーマルシナリオ」の場合は2040年までに23.2%になる見通しです。
いずれのシナリオにおいてもEC化率はますます伸びていくと考えられています。
8. EC化率は今後も伸びていく
新型コロナウイルスの影響により、2020年頃から「巣ごもり」需要が増え、EC化率もまた高まりました。現在は外出需要も増加し、EC化率の伸び率は鈍化しているといえます。
ただ、今後も国内外の各分野でEC化率は伸びていくと予想されています。EC事業に携わる人は、EC化率のデータを活用し、戦略立案などに役立てると良いでしょう。