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1. チャットコマースとは
チャットコマース(Chat commerce)は、チャット(会話)ができるツール、いわゆる「LINE」や「Facebook Massenger」などのチャットツールを媒介して、ユーザーとコミュニケーションをとりながら、商品を販売したり問い合わせに対応したりするサービスです。Conversational Commerce(会話型コマース)とも呼ばれています。
1-1. チャットコマースの市場規模は今後も拡大していくと予測される
チャットコマースの核となる「チャットボット」の国際的な市場価値は、2022年の42億8000万米ドルからCAGR21.5%で成長を続け、2028年には137億7000万米ドルに達すると予想されています。(参照:チャットボットの市場規模、2028年に137億7000万米ドル到達予想|株式会社グローバルインフォメーション)
チャットボットの需要が今後ますます高まることから、チャットコマースの市場規模は今後も拡大していくと予想できるでしょう。
2. チャットコマースが注目されている背景
新しいEC戦略として期待されているチャットコマース。なぜチャットコマースが注目されるようになったのでしょうか。その背景を解説します。
2-1. チャットでのコミュニケーションが当たり前になったから
スマホやタブレットが普及した現代では、LINEやFacebook Massengerを利用する人が増えてきました。昨今話題に上ることが多い「ChatGPT」も人工知能(AI)を活用したチャットサービスです。「チャット」というトレンドの波が押し寄せているとうかがえます。
文字によって手軽にコミュニケーションがとれるチャットは、電話やメールよりも利用するときのハードルが低く、気軽に利用できるというメリットがあります。私たちと密接な関係になった「チャット」を販促に活用するというのは、自然な流れといえるでしょう。
2-2. パーソナライズされた顧客体験が重要視されるようになったから
EC市場規模は年々拡大しています。選択肢が増えたことで、ユーザーは商品やサービスの価値だけでなく「パーソナライズされた顧客体験」を求める傾向が強くなっています。つまり、価格や機能面だけで購入を決めるのではなく、個々の顧客を理解して最適なサービスを提供してくれる企業や商品を選ぶ方向に傾いているということです。
たとえば、以下のようなサービスです。
- 好みの系統の洋服を理解して、最適なアイテムを紹介する
- 肌質や肌悩みを理解して、適切な化粧品を提供する
- 食事コントロールが必要な顧客に、夕食の写真をもとに食事指導すると同時に食事宅配サービスを提供する
これらの対応は、きめ細かな対応ができる対面接客でのみ実現できるとされており、機械的に情報を入力するだけの従来のECでは難しいといわれていました。しかし、チャットコマースであれば、対話のようなやり取りで顧客のニーズや悩みを聞き取ることができます。
つまり、Web上でもパーソナライズされた購入体験を提供できるというわけです。また、商品についての疑問や不安を相談するとすぐに回答が得られる、という点もCX向上につながると考えられます。
2-3. Cookie規制により特定ユーザーの行動が追跡できなくなったから
個人情報の保護を尊重した「Cookie規制」も、チャットコマースの普及を後押ししています。これまでは、サードパーティーCookie(ユーザーがアクセスしたサイト以外のドメインから発行されるクッキー)により、複数のサイト上で同一ユーザーの行動が追跡できました。
ところが、アメリカのカリフォルニア州で制定された消費者プライバシー法「CCPA」、EU圏の個人データ保護を規定する法律「GDPR」などを皮切りに、プライバシー保護の流れがWeb上にも押し寄せています。結果として、Googleやアップルは以下のような方針を決めています。
2021年、GoogleChromeのサードパーティークッキーを2023年までに段階的に廃止する方針を決定。 2022年7月「2024年後半から廃止する」と延期を発表。 | |
Apple | 2020年3月、Safariに搭載されているITP(トラッキング防止機能)を更新。 2022年3月、同社のブラウザSafariのサードパーティークッキーを全面的にブロック。 |
ここで重要視されるようになったのが「ゼロパーティーデータ」です。ゼロパーティーデータとは、顧客が意図的・積極的に企業と共有するデータのことで、アンケートや投票によって得られるデータが該当します。
Cookie規制が進むなか、コミュニケーションをとりながらゼロパーティーデータを収集できるチャットコマースが注目されているのです。
3. チャットコマースの導入によって得られるメリット
チャットコマースの導入によって得られるメリットには、どのようなものがあるのでしょうか。企業と顧客、それぞれの視点からみていきましょう。
3-1. 企業にとってのメリット
企業にとってのメリットは、以下の3点です。
- 企業(ブランド)のロイヤリティ向上が期待できる
- 人件費や開発費などのコストを削減できる
- 顧客情報やニーズをキャッチできる
それぞれ解説します。
①企業(ブランド)のロイヤリティ向上が期待できる
チャットコマースの最大のメリットは、実店舗のようなOne to Oneの接客ができることです。具体的には、年齢や性別、居住地などのユーザー情報から興味のあるおすすめ商品を提案したり、悩みに寄り添って解決策を探ったりするなどの対応が可能になります。
また、チャットコマースは基本的にはAIが対応しているため、真夜中の問い合わせにも対応してくれます。コールセンターとは異なり、顧客を待たせることもほとんどありません。
こうしたサービスを受けたユーザーは「自分にとっての最適な対応をしてくれた」と認識し、CX向上につながります。結果として、ユーザーは企業やブランドに対して好感をもち、信頼や愛着をもつようになります。
②人件費や開発費などのコストを削減できる
ECサイトの運営には、顧客からの問い合わせに対応するための「カスタマーサポート窓口」設置が不可欠です。利用者が多いサイトほど、窓口対応の人員確保が必要になります。一方、チャットコマースはAIが基本の問い合わせ対応を担当し、解決しきれなかったときのみ社員が対応する仕組みです。そのため、従来よりも人件費を大幅に削減できます。
また、LINEやFacebook Messengerなどの既存のアプリを活用できるのもメリットです。自社アプリの開発は、利便性を求めるには向いていますが、多くの予算を必要とするため、導入・運用のリスクがあります。せっかく開発しても、ダウンロードされない、もしくはすぐに消されてしまうといったケースもあるかもしれません。
チャットコマースは既存のアプリをプラットフォームとして使用できるため、システム開発の費用を削減できます。さらには、人気アプリの集客力を利用できる点もメリットでしょう。
③顧客情報やニーズをキャッチできる
チャットコマースは、コミュニケーションを通じて、ユーザーに関するデータを多く集めることができます。集積されたデータは、顧客の生の声を自社だけで得たオリジナルであり、信ぴょう性の高いデータです。チャットコマースで得たデータは、販促活動で役立てられるだけでなく、個人に対してのアプローチに大変有効に働きます。
また、やり取りの履歴をデータとして残せるのもチャットのメリットです。「顧客情報やニーズをキャッチしてデータとして蓄積し、個々への発信に活用する」という戦略は、結果としてエンゲージメントの高いファンをつくることにつながるでしょう。
3-2. 顧客にとってのメリット
顧客にとってのメリットは、以下の2点です。
手軽に問い合わせができる
迅速に問題解決ができる
それぞれみていきましょう。
①手軽に問い合わせができる
チャットでの問い合わせは、電話やメールに比べて気負いなく問い合わせできる点がメリットです。慣れ親しんだチャットというツールで、いつでも問い合わせができる点は顧客にとって大きなメリットといえます。
また、多くのユーザーが使用しているLINEなどの既存のアプリをプラットフォームとしているため、わざわざ新しいアプリをインストールする必要がありません。「商品のことは気になるけれど、問い合わせが面倒」と感じているユーザーの心理に大きく働きかけ、販売促進にもつながります。
②迅速に問題解決ができる
コールセンターなどの問い合わせ窓口は「平日の18時まで」などと時間が決められている場合が多く、疑問をもったときから問題解決までの時間が長くなってしまいます。
一方で、チャットコマースは、基本的にAIが対応しているため、24時間365日対応が可能です。つまり、ユーザーが「知りたい」と思ったときにいつでも企業やブランドへ問い合わせができる、さらには待ち時間もなく迅速に問題解決ができるというわけです。
4. チャットコマースを活用しているブランド・企業と具体例
実際にチャットコマースを導入している企業は、どのように活用しているのでしょうか。具体例を紹介します。
4-1. オルビス(化粧品)
引用:オルビスHP
日本の化粧品ブランド「オルビス」は、チャットコマース「ジールス」を活用して、店頭での接客体験をオンライン上で実現することを目指しました。具体的には、LINEを活用した肌タイプ診断です。
<チャットコマースを活用した施策>
質問に答えて肌タイプを診断し、それぞれのユーザーに適した商品をおすすめします。一方的な押し売りではなく、普段ユーザーが気にしないような質問をいれることで、潜在ニーズを引き出したうえで商品を提案しているのだそうです。
また、公式アカウントとは別に診断用のアカウントを設置しているところにもこだわりがうかがえました。診断用は「コミュニケーションをおこなうチャネル」、公式サイトは「情報をうけとるチャネル」と分別するためです。
<結果>
LP離脱のポップアップ誘導や、他スキンケアアカウントからのプッシュ配信、テレビCMなどの影響もあり、取り組みから1カ月でCV数が約160%増、3カ月後には約400%にまで伸びました。(参照:「人肌感」のあるコミュニケーション設計でCV400%増 オルビスのLINE公式アカウント活用術|MarkeZine)
4-2.ヤマト運輸
引用:ヤマト運輸公式HP
国内大手宅配業者である「ヤマト運輸」は、「LINE」のチャットルームを活用しています。ネット通販の急激な拡大に伴い、配達ドライバーの業務がひっ迫してきたことから、チャットコマースによる業務効率化を目指しました。
<チャットコマースによる施策>
ヤマト運輸の公式LINEと友だちになると、LINEから下記の対応が可能になります。
- 配達状況の確認
- 受け取り日時や場所の変更
- 再配達依頼
- 不在通知
- 各種案内・問い合わせ
また、「ネコ語」で問い合わせをするとクロネコが反応してくれるという粋なシステムも一部で話題となりました。2024年2月時点で5,100万人の友だち登録者がいることから、多くの人がヤマト運輸のチャットコマースを利用しているとうかがえます。
<結果>
チャットコマースを活用したことで、顧客にとってより利便性の高いサービスになりました。また、再配達や電話対応の手間削減により、配達ドライバーの業務効率化に成功しています。
5. チャットコマース導入の注意点
企業と顧客にさまざまなメリットをもたらすチャットコマースですが、以下の点には注意が必要です。
- 顧客対応を完全に無人化できるわけではない
- 成功事例を鵜呑みにしない
チャットボットの精度は高まっていますが、人と同じような対話(対応)はまだ難しい段階です。実際に、チャットボットによる対応に非常に満足している消費者は、わずか20%ほどという結果がでています。(参照:THE STATE OF CUSTOMER EXPERIENCE|GENESYS)
顧客満足度を上げるためには、チャットボットとオペレーター間で正しい情報を共有できるためのシームレスな流れを作ること、すぐにオペレーターにつなげられる体制を整えておくことが重要です。
また、成功事例を鵜呑みにしないことも大切です。チャットコマース導入の成功は、自社の課題に合わせたツールを選ぶことがカギになります。「カスタマーサポートの強化」「売上の向上」「業務の効率化」など、目的や課題を可視化したうえで、解消し得るツールは何かを検討しましょう。
6. 通販・ECのコールセンターなら千趣会にご相談ください
手軽に問い合わせができることから、安心感の醸成やコンバージョン率向上が期待できるチャットコマースですが、導入の際は、運用やコストを慎重に検討する必要があります。
わたしたち千趣会は半世紀以上にわたり通販というビジネスの中で、試行錯誤を重ねてきました。失敗と成功の中で蓄積したノウハウをぜひ貴社の課題解決にお役立てください。
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