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- 目次
1. ヘッドレスコマースとは?

ヘッドレスコマースとは、ECサイトの「フロントエンド」と「バックエンド」を切り離したアーキテクチャ(設計思想に基づいて構築されたシステム構造)です。
■フロントエンド<UI(User Interface:ユーザーとサービスの接点)>
ユーザーが操作可能なECサイトの表側、いわゆるメインデザイン
■バックエンド
ECサイトの裏側の部分、いわゆる在庫管理や決済機能、受注処理機能、配送情報など
ヘッドレスコマースはどのような仕組みになっているのか、従来のECサイトとの違いは何かを詳しくみていきましょう。
1-1. ヘッドレスコマースの仕組み
ヘッドレスコマースでは、フロントエンドとバックエンドをAPIを使用して連携しています。API(Application Programming Interface)とは、異なるソフトウェアやアプリケーションをつなげる仕組みです。ソフトウェアやアプリケーションの一部を公開することで、第三者が開発したソフトウェアと機能を共有できるようにします。
間にAPIを挟むことにより、フロントエンドとバックエンドが独立するのがヘッドレスコマースの大きな特徴です。つまり、フロントエンドはバックエンドの影響をうけずに独自のカスタマイズが可能になり、バックエンドの改修時はフロントエンドに影響を及ぼす心配がないというわけです。
1-2. ヘッドレスコマースと従来型ECの違い
従来のECシステムは、「モノリシックコマース」と呼ばれています。モノリシックとは「一枚岩」という意味をもっており、名前の通り一枚岩構造をしているのが特徴です。つまり、フロントエンドとバックエンドが独立しておらず、一つのシステムとして連携しているということです。
<従来型ECの特徴>
- システム構成がシンプル
- 開発難易度がそれほど高くない
- 運用コストが抑えられる
一方で、軽微なフロントエンドの改修でもバックエンドに大きな影響をあたえてしまう場合があるため、改修までにバックエンドとの調整が必要だったり、制限がかけられたりするのが問題でした。
先述の通り、ヘッドレスコマースはフロントエンドとバックエンドが独立しており、お互いに干渉しあう心配がありません。したがって、フロントエンドを自由にカスタマイズできる点が従来型ECとの大きな違いといえます。
2. ヘッドレスコマースが注目されている背景

ヘッドレスコマースは、EC事業の課題解決をサポートするシステム構造として、近年注目が集まっています。なぜ、今ヘッドレスコマースが注目されているのか、背景にある事情をひもといていきましょう。
2-1. ユーザーが使用するデバイスの多様化
現代では、ECサイトにアクセスするデバイスが以下のように多様化しています。
- スマートフォン
- パソコン
- タブレット
- スマートスピーカー
- スマートウォッチ
- スマートテレビ
- 家庭用ゲーム機
ユーザーが快適にサイトを利用するためには、どのデバイスでも見やすいページを作ったり、専用のアプリを作成したりする必要があります。
ヘッドレスコマースはフロントエンドの改修が比較的容易なため、市場の変化に応じたUI構築をスムーズにおこなうことが可能です。
2-2. 新たなマーケティング戦略の必要性
オムニチャネルやOMOなど、オンラインとオフラインを融合した新たなマーケティング戦略が広まっているのも、ヘッドレスコマースが注目されている理由です。
消費者行動は変化しています。たとえば、店頭で買い物をしながらオンラインショップをチェックする、SNSで商品に興味をもって実店舗に来店する、といったように、オンラインとオフラインはもはや切り離しては考えられない関係になっています。
これらのサービスを実現するには、実店舗を含む複数チャネルとの連携が不可欠です。ヘッドレスコマースは、APIを活用することにより、さまざまなチャネルに比較的容易に連携できます。
2-3. コロナ禍以降加速するEC市場の飽和
EC事業に進出する企業は年々増加しており、レッドオーシャン状態です。拡大を続けるEC事業で頭一つ抜けるためには、マーケティングを強化する必要があります。ヘッドレスコマースはAPIの活用により、ページの読み込み速度を大幅に向上させることが可能です。
モバイルサイトでのページ読み込み速度はユーザーの離脱率に大きくかかわっていると分かっており、ページの読み込み速度を上げられれば、サイトの離脱率は下がり、コンバージョンを上げることができます。
3. ヘッドレスコマースのメリット

先述の通り、ヘッドレスコマースはフロントエンドとバックエンドを切り離して運用できる点が特徴です。これにより、どのようなメリットが得られるのか、詳しく解説します。
3-1. フロントエンドをスピーディーに改修できる
ヘッドレスコマースの大きなメリットが、フロントエンドをスピーディーに改修できる点です。従来のECサイトの場合は、ほんの少しの修正だけでもバックエンドに影響をあたえてしまわないか、影響がある場合にはバックエンド側が対応可能か、複数の担当者へ逐一確認する必要があります。
一方で、ヘッドレスコマースならフロントエンドの見せ方をいつでも自由に変更・拡張することが可能です。そのため、期間限定のコンテンツ配信やトレンドを汲み取った配信をスムーズにできます。
また、フロントエンドとバックエンドの開発を別々に進められるため、開発納期を大幅に短縮できるのもメリットです。連携して開発する必要がないため、マルチベンダーによるシステム開発も可能です。
3-2. 市場ニーズの変化にフレキシブルに対応できる
ヘッドレスコマースはバックエンドに依存せずにフロントシステムを拡大できるため、消費者とのタッチポイントを自由に増やせます。たとえば、APIを活用して、モバイルアプリやスマートスピーカー、スマートウォッチなどのさまざまなチャネルと比較的容易に連携できるのです。
VRやライブコマースなどのニーズも高まってきています。ヘッドレスコマースを導入していれば、エンジニアはこれらの新しいフロントエンドの開発に専念できるため、市場のニーズやトレンドに合わせて柔軟かつスピーディーに対応できます。
3-3. ユーザーの購買行動を多様な視点から分析できる
ヘッドレスコマースは、複数のECサイトの構築・メンテナンスが比較的容易におこなえます。そのため、ブランドを複数立ち上げていたり、幅広い商品カテゴリを展開していたりする場合でも、それぞれのターゲットに合わせてUIを最適化できます。
また、それぞれのタッチポイントでのデータを一元管理できるため、顧客データを活用した予測分析を生かせるのもヘッドレスコマースのメリットです。たとえば、以下のような施策が挙げられます。
- 売上が伸びているカテゴリのサイトを一時的に独立させる
- 成功しているサイトやアプリを分析して、ほかのブランドやサイトに手法を応用する
短期間で成功例や失敗例を集めることができれば、PDCAを高速で回すことができ、企業の成長も加速するでしょう。このように、「複数サイトでのユーザーの購買行動を分析してマーケティングで生かせる」という点がヘッドレスコマースのメリットといえます。
4. ヘッドレスコマースのデメリット

ヘッドレスコマース導入は企業にとってのメリットが大きい一方、なかなか導入が進んでいないのも事実です。ヘッドレスコマース普及の妨げとなっているデメリットをみていきましょう。
4-1. 専門的な知識が必要
ヘッドレスコマースを導入するためには、フロントエンドとバックエンドをつなぐAPI連携についての知識が求められます。従来のECサイト構築は一枚岩構造で、構築・運用が比較的容易でした。しかし、ヘッドレスコマースは従来のECサイト構築よりも高い知識が求められます。また、移行後は効率よく運用するためにWebマーケティングのノウハウも必要になってきます。
社内に担当できる人がいない場合は、人材の育成、または外部に依頼しなければなりません。すぐにでも人材育成ができる環境、もしくは外部に依頼できるだけの資金がなければ、ヘッドレスコマースの導入は難しいでしょう。
4-2. 費用対効果が得られない場合がある
ヘッドレスコマースの導入は、従来のECサイト構築よりも費用と時間がかかります。また、導入後はすぐに利益がでるとは限らず、データをもとに売上を伸ばすための改修を適宜おこなわなければなりません。
つまり、売上がでるまでには時間が必要なうえに、費用と時間をかけて導入しても、必ずしも費用対効果が得られるとはいいきれないわけです。もちろん、赤字となる場合もあるでしょう。ヘッドレスコマースはコスト削減効果は見込みづらく、ある程度の運用資金がある企業でないと導入・運用は難しいといえます。
5. ヘッドレスコマースの導入事例

ヘッドレスコマースの波は着実に到来しており「アマゾン・ドット・コム(アメリカ)」やスポーツブランドの「ナイキ(アメリカ)」などがいち早く取り入れています。また、化粧品ブランド「ランコム(フランス)」もヘッドレスコマースを導入し、シンガポールに初のオンラインポップアップ店を開設しました。
では、ヘッドレスコマースを導入している企業は、どのような成果を上げているのでしょうか。詳しくみていきましょう。
5-1. Babylist(Shopify)

引用:Babylist
出産を控えている人が、ギフトに欲しいものをリストにして共有できるオンラインプラットフォームです。Babylistは、出産を控えてベビー用品がほしいと思っている人と、ギフトを贈りたいと思っている人、2種類のカスタマーエクスペリエンス(CX)が存在しています。
そこで、Babylistはヘッドレスコマースに移行してCMS(Contentful)、注文管理システム(Shopify)、チェックアウト(Shopify Plus)などの複数のプラットフォームを統合しました。
その結果、新しいヘッドレスサイトの注文ボリュームは、前年比145%上昇、初月以降、月間のiOSアプリチェックアウトは300%上昇、オンラインプラットフォーム経由のギフトは前年比で102%成長を遂げています。
5-2. Outfitter(電通アイソバー(現電通デジタル))

引用:Outfitter
Outfitterは、イオングループの新規事業で、2020年6月にスタートしたカスタムユニフォームECサービスです。スマートフォンなどのデバイスからユニフォームが作れる手軽さと、スポンサーロゴを入れると最大半額でユニフォームが作れるという日本初のサービスが注目されています。
Outfitterは、電通アイソバー(現・電通デジタル)が提供するヘッドレスコマースの導入により、ブラウザー上で楽しみながらストレスなく自分好みのユニフォームを作り上げていくという購買体験を実現しました。結果として、2020年6月のサービス開始から21年3月までで、約500チームに5000枚を販売。21年は、1200チームに1万2000枚の販売を見込むほどの勢いをみせました。
6. ヘッドレスコマースは導入するべき?今後の展開とは

ヘッドレスコマースは、オムニチャネルやOMOの拡大にともない、今後ますます需要が高まっていくと想定されます。しかし、効果を発揮するシチュエーションを選ぶシステムのため、安易に導入する方がよいとはいいきれません。
そこで、ヘッドレスコマースがマッチするケースと、予測される今後の展望について解説します。
6-1. ヘッドレスコマースがマッチするケース
まずは、ヘッドレスコマースがマッチするケースをみていきましょう。ヘッドレスコマースに求める効果がある、かつ、必要なものが揃っている(揃えられる)場合は、ヘッドレスコマースがマッチするといえます。
<求める効果>
- 複数ブランドを運営したい
- オムニチャネルで販路拡大をしたい
- デザインや機能の改修を素早くおこない、スピード感をもって事業拡大を図りたい
- ユーザー行動をより細かく分析・理解して、継続的にUX改善をおこないCS向上を図りたい
<必要なもの>
- フロントエンドで高速PDCAを回せる制作リソース
- バックエンドシステムやAPI連携に知見のあるエンジニア
- Webマーケティングに精通している人材
- 細やかな管理とメンテナンスが可能なCMS
- ヘッドレスコマースに対応可能なバックオフィスシステム
必要なもので特に大切なのが、優秀なバックオフィスシステムです。いくらフロントエンドをカスタマイズして利便性を向上させても、バックエンドでの受発注管理、在庫管理、決済などが機能しないとUX向上はできません。
求める効果に期待したいと思っており、必要なものが揃えられる企業は、ヘッドレスコマースの導入を検討してみる価値があるでしょう。
6-2. ヘッドレスコマース対応は無理に急ぐ必要はない
ECのオムニチャネル化により、ヘッドレスコマース導入の流れは今後加速していくと想定されます。しかし、ヘッドレスコマースの導入・運用はコストがかかるうえに、運用中のユーザー行動分析、UX改善を重ねられる体制が必要不可欠です。体制が整っていない企業が導入しても、継続して利益を生み出すのは難しいでしょう。
そのため、現段階では無理にヘッドレスコマースの対応を急ぐ必要はないといえます。体制が整っていない企業は、まずUI/UXを高められる体制を整えることに注力しましょう。
7.ECサイトの改善なら千趣会にご相談ください
ヘッドレスコマースは、あらゆるデバイスに適応したフロントエンドを作成できたり、市場のニーズに対してスピーディーにフロントエンドを改修したりすることができます。ユーザーの行動がますます多様化していくと想定される今後、需要は高まっていくでしょう。
しかし、導入・運用にあたっては専門的な知識が必要であり、起動に乗るまで費用対効果を得られない可能性があります。ヘッドレスコマース導入に向けての体制が整っていない企業の場合、まずはECサイトのUI/UX向上を目標にEC事業の基盤をかためることが最重要です。
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